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奈良地方裁判所 昭和37年(行)4号 判決 1973年3月30日

奈良市下三条町四九一番地

原告

奈良観光ホテル株式会社

右代表者代表取締役

浅川実

右訴訟代理人弁護士

本家重忠

奈良市登大路町八一番地

被告

奈良税務署長 佐竹三千雄

右指定代理人

二井矢繁朗

右同

山田太郎

右同

首藤貞信

右同

山本喜文

右同

井手智之

右当事者間の昭和三七年(行)第四号法人税更正決定取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1. 原告の昭和三五年一〇月一日より昭和三六年九月三〇日までの事業年度分の更正処分の取消を求める部分につき訴を却下する。

2. 原告のその余の請求はいずれも棄却する。

3. 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告

(主位的申立)

(一) 「被告が昭和三六年一二月二七日付で原告の(イ)昭和三二年一〇月一日より、昭和三三年九月三〇日まで、(ロ)昭和三三年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日まで、(ハ)昭和三四年一〇月一日より昭和三五年九月三〇日まで、(ニ)昭和三五年一〇月一日より昭和三六年九月三〇日までの各事業年度分の法人税についてした各更正処分重加算税および過少申告加算税賦課決定(ただし、右(イ)(ロ)(ハ)の各事業年度分につき大阪国税局長が審査決定によりそれぞれその一部を取消した部分分を除く。)はいずれもこれを取消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(予備的申立)

「被告が昭和四〇年七月三一日付で原告の昭和三五年一〇月一日より昭和三六年九月三〇日までの事業年度分の法人税についてした再更正処分はこれを取消す。」

との判決。

二、被告

(本案前の申立)

「主位的申立の内、昭和三五年一〇月一日より昭和三六年九月三〇日までの事業年度分の更正処分の取消を求める部分並びに予備的申立につき、原告の訴をいずれも却下する。」

との判決。

(本案の申立)

「原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決。

第二、 当事者双方の主張

一、 原告

(請求原因)

(一) 原告は旅館業を営む者であるが、被告に対し、青色申告をもって、原告の(イ)昭和三二年一〇月一日より昭和三三年九月三〇日まで、(ロ)昭和三三年一〇月一日より昭和三四年九月三〇日まで、(ハ)昭和三四年一〇月一日より昭和三五年九月三〇日をで、(ニ)昭和三五年一〇月一日より昭和三六年九月三〇日までの各事業年度(以下右(イ)(ロ)(ハ)(ニ)の各事業年度を順次昭和三三年年、昭和三四年度、昭和三五年度、昭和三六年度と略称する。)分の法人税につき、その所得金額、法人税額をそれぞれ次のとおり確定申告した。

1. 昭和三三年度

申告日 昭和三三年一一月二九日

所得金額 一六四、九四七円

法人税額 五四、四一〇円

2. 昭和三三年度

申告日 昭和三四年一一月三〇日

所得金額 三四九、四九一円

法人税額 一一五、三〇〇円

3. 昭和三五年度

申告日 昭和三五年一一月三〇日

所得金額 七〇五、四〇四円

法人税額 二三二、七八〇円

4. 昭和三六年度

申告日 昭和三六年一一月三〇日

所得金額 一、八五八、五七三円

法人税額 六一三、三〇〇円

(二) 被告は、昭和三六年一二月二七日原告の昭和三三年度分以降の青色申告書提出の承認を取消すとともに、同日前記各確定申告に対し次表のとおりそれぞれ更正処分重加算税および過少申告加算税の賦課決定をした(以下上記処分等を本件更正処分という。)

<省略>

<省略>

(三) そこで、原告は本件更正処分につき昭和三七年一月九日被告に再調査請求をしたのに対し、被告は同年四月七日右再調査請求を棄却する旨の決定をしたので、同月一二日更に大阪国務局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和四〇年六月九日本件更正処分のうち昭和三三年度ないし昭和三五年度分につき次表のとおりそれぞれその一部を取消したが、昭和三六年度分については右審査請求を棄却する旨の決定をした(以下上記決定を本件審査決定という。)

<省略>

(四) しかしながら、原告の昭和三三年度ないし昭和三六年度分の所得金額および法人税額は、前記確定申告のとおりであつて、本年件正処分(但し、昭和三三年度ないし昭和三五年度分につき、本件審査決定により前表のとおりそれぞれその一部が取消された分を除く。)は右各年度分の原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

(五) 仮りに、本件更正処分のうち昭和三六年度分についての更正処分が被告主張の更正処分(以下本件再更正処分という)により消減したとしても、同年度分の原告の所得金額は前述したとおりであるから、右再更正処分も又同年度分の原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

(六) よつて、原告は、主位的に本件更正処分の、予備的に本件再更正処分の各取消を求めるため本訴におよんだものである。(被告の本案前の主張に対する原告の答弁および主張)

(一) 被告は、原告の主位的申立のうち昭和三六年度分の更正処分の取消を消める訴は、右更正処分が本件再更正処分により消減したから不適法である旨主張するが、原告はかかる再更正処分がなされたことは全く知らないし、仮りに右処分がなされたとしても、原告は当該処分通知書の送達を受けていないから、右処分は処分の効力発生についての要件手続の欠缺もしくは送達手続の重大且つ明白な瑕疵により無効である。

(二) 被告は、原告の予備的申立につき、右申立は行政事件訴訟法上の出訴期間を経過しているから不適法である旨主張するが、本件再更正処分は、本件更正処分に対する取消訴訟の係属中になされたものであり、右取消訴訟において原告が被告認定の所得金額、法人税額を争つている以上これより多額の所得金額等を認定した本件再更正処分についてもこれを争うことは明白であるから、原告の予備的申立につき形式的に出訴期間の不遵守があつても、右申立は不適法とはならないものと解釈すべきである。

(被告の本案の主張に対する原告の答弁及び反論)

(一) 被告の主張(一)の事実中、被告が同事実記載のとおり本件更正処分および本件再更正処分により所得金額を増減額したことは認めるが、その余の事実は争う。

(二) 同(二)の事実中。

1. 昭和三三年度分について

(1) 繰越欠損金否認額については認める。

(2) 別口利益金の存在については以下に述べるとおりこれを否認する。

(イ) 普通予金および定期預金について、被告主張のような各預金名義および預金残高があること右各預金名義がいずれも架空であることは認めるが、その余の事実は否認する。右各預金は後述するとおりすべて原告代表者たる浅川実個人の預金であって、原告会社とは無関係のものである。

(ロ) 架空借入金については、被告主張の日時に同主張の金員を借入れこれを返済したことは認めるが、右借入が架空であるとの主張は争う。原告は、前記浅川実個人の預金である尾田竜一、砂田浩、田口明宏名義の各普通預金より被告主張の金員を借受けたものである。

(ハ) 架空未払金についての被告主張は否認する。同未払金は前記(ロ)の借入金に対する未払利息であるところ、右借入金が架空でないこと前述したとおりであるから、右未払利息も架空ではない。

(ニ) 繰越金についてはこれを認める。

(3) 寄附金限度超過額認容額については争う。減算する必要はない。

2. 昭和三四年度分について

(1) 別口利益金の存在については、以下に述べるとおりこれを否認する。

(イ) 普通予金および定期預金について、被告主張の各預金名義および預金残高があることは認めるが、その余の事実は否認する。右各預金は昭和三三年度分について述べたのと同様、浅川実個人の預金である。

(ロ) 仮払金については被告主張の定期預金が同主張のとおり解約されたことは認めるが、その余の事実は否認する。右定期預金は前述したとおり実質上浅川実個人の預金であつて、原告会社とは無関係である。

(ハ) 架空未払金については、原告が被告主張のとおり奈良信用金庫から借入れた金員を同主張の各名義預金に振替えたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、昭和三三年一二月二九日訴外株式会社大同建設に支払うべき請負代金一、六〇〇、〇〇〇円を原告会社の資金不足につきその代表者たる浅川実個人より立替支払をうけたので、これを同人に返済するため前記奈良信用金庫からの借入金をもって被告主張の各名義預金(実質上浅川実個人の預金であり、原告会社の別口預金ではない。)に振替えたものである。

(2) 減価償却超過額については認める。

(3) 未納事業税、寄附金限度超過額認容額については争う。減算の必要はない。

(4) 益金計上還付税額については認める。

3. 昭和三五年度分について

(1) 別口利益金の存在については、以下に述べるとおりこれを否認する。

(イ) 普通預金および定期預金について、被告主張の預金名義および預金残高があることは認めるが、その余の事実は否認する。

(ロ) 仮払金についての被告主張は全部否認する。同主張の預金名義はいずれも実質上浅川実個人の預金である。

(2) 減価償却超過額、損金計上源泉徴収加算税、減価償却超過額認容額、税金引当金の目的外支出についてはいずれもこれを認める。

(3) 未納事業税については争う。

4. 昭和三六年度分について

本件再更正処分に対する原告の認否((三)記裁)と同一であるからすべてこれを援用する。

(三) 被告の主張(三)の事実中、

(1) 別口利益金の存在については、以下に述べるとおりこれを否認する。

(イ) 普通預金について、被告主張の預金名義および預金残高があることは認めるが、その余の事実は否認する。右預金は実質上は前記浅川実個人の預金であって、原告会社とは無関係である。

(ロ) 仮払金については、いずれも否認する。被告主張の預金はいずれも右浅川実個人の預金である。

(2) 簿外定期預金利息については争う。被告主張の各定期預金はいずれも浅川実個人の預金であるから、右利息を原告代表者に対する賞与と認定することは不当である。

(3) 減価償却超過額については認める。

(4) 寄附金損金算入限度超過額については争う。原告の申告した寄附金はその営業の遂行上必要やむをえないものである。

(5) 仮払計上督促手数料、未納事業税についてはいずれも争う。

(6) 減価償却超過額認容額については認める。

(四) 被告が前記各年度分の別口利益金算出の基礎とした同主張の各預金名義は、繰り返し述べるようにいずれも原告代表者浅川実個人の預金であり、原告会社とは無関係のものである。すなわち、右浅川実には原告会社の代表取締役としての報酬以外にも、

(1) 同人名義にかかる奈良市椿井町一〇第地椿井市場内精肉店舗の什器備品付老舗権利を昭和三二年八月十五日岡西元一に八〇〇、〇〇〇円にて売却譲渡し、爾後同人より右店舗賃貸料として一か月五、〇〇〇円の収益、

(2) 昭和二一年頃高間数一(浅川実の義弟)が飲食営業を始めるのに際し、同人に対し不動産買入、結婚等の資金ととして貸与えた一、三〇〇、〇〇〇円を昭和三二年頃より同人から遂次返済を受けているもの、

(3) 尾田鶴雄(浅川実の従兄弟)に対し四五〇、〇〇〇円を貸与えていたところ、同人が右貸金で購入した奈良市東向中町五番地の二所在の同人所有の土地家屋を昭和三一年八月売却したことに伴ないその代金二、〇〇〇、〇〇〇円を、物価昂謄等による前記貸金の弁済額として同人から返済を受けたもの。

等の所得があり、右所得はすべて第三相互銀行奈良支店の預金口座に架空名義で預金されていたものである。そして、原告会社は旅館営業で収支の変動が激しいところから、前述したとおり資金不足の場合に右浅川実所有の預金より一時立替を受け、後日原告発行の小切手で右立替金を浅川実に返済していたのである。被告はかかる浅川実個人の収益、資産等を全く顧慮することなく、単に被告主張の各名義預金が架空であるとの理由から、これら各預金の期末残高をもってただちに原告会社の所得と推認したものであり、合理的根拠は全くない。

原告会社は、奈良市三条通りの国鉄奈良駅前にあつて、宿泊客の殆んどは修学旅行生徒等の団体客であり、団体客の宿泊料および定員数は奈良県および交通公社の監督を受けているのであるから、被告主張のような多額の収益があがる筈がないのである。

二、被告

(本案前の主張)

(一) 原告は、一次的に、原告の昭和三六年度分の法人税についての本件更正処分の取消を求めているが、右更正処分は、被告が昭和四〇年七月三一日国税通則法二六条に基づきなした、昭和三六年度分の原告の所得金額を三、〇八五、六九一円、法人税額を一、一七三、三二〇円、重加算税額を一六〇、五〇〇円とする再更正処分(本件再更正処分)によりり消減したものであるから、右訴はその対象を欠くこととなり不適法として却下すべきである。

(二) 原告は、予備的に、本件再更正処分の取消を求めているが、右申立は行政事件訴訟法一三条にいう旧訴との関連請求にあたり、申立自体において独自に出訴期間の遵守その他の訴訟要件を具備していなければならないところ、本件再更正処分は前記のとおり昭和四〇年七月三一日にしたものであるのに対し、原告の右申立は昭和四四年二月二六日付でなされたものであるから、同申立は行政事件訴訟法一四条の定める出訴期間(三か月)経過後になされたことが明らかで不適法として却下すべきものである。

原告は、本件再更正処分を受けていない旨主張するが、被告は、本件再更正処分の通知書を昭和四〇年七月三一日に原告に送付し、同年八月二日佐々木かずによって代人受領されている。

(原告の請求原因に対する被告の答弁)

請求原因(一)ないし(三)の事実はすべて認める。

(被告の本案の主張)

(一) 原告の昭和三三年度ないし昭和三六年度分の法人税について、原告が確定申告した所得金額に対し、被告が本件更正処分(昭和三三年度ないし昭和三五年度分、ただし、上記各年度分につき大阪国税局長が本件審査決定によりそれぞれの一部を取消した分を除く。)および本件再更正処分により増減額した所得金額の内訳は次表(1)(2)記載のとおりである。

なお、本件更正処分のうち昭和三六年度分については、被告はその所得金額を二、四八二、四〇〇円と認定したが、その後の調査の結果、右所得金額は、同金額を上廻る三、〇八五、六九一円であることが判明した。ところで、右三、〇八五、六九一円は本件再更正処分による原告の所得金額と同一であり、その増減額の内訳についても本件再更正処分のそれと全く同一であるから、すべてその記載を援用する。

(1) 本件更正処分の内昭和三三ないし三五年度分についての内訳

(ただし、上記各年度分につき審査決定によりそれぞれ一部取消された分を除く。)

<省略>

(2) 本件再更正処分の内訳

<省略>

(二) そして、前項(1)表に掲げた本件更正処分の各年度における項目別の更正理由は以下に述べるとおりである。

1. 昭和三三年度分について

(加算すべきもの)

(1) 繰越欠損金の否認額 一二〇、三一四円

原告会社は、昭和二二年三月三一日法律第二八号旧法人税法九条五項(昭和二五年法律第七二号により改正されたもの)の規定により繰越欠損金一二〇、三一四円を控除して確定申告書を提出したが、原告会社は本事業年度以降の事業年度について青色申告書提出の承認を取消されたので、右繰越欠損金一二〇、三一四円は所得の計算上損金に算入することができない。

(2) 別口利益金 一、四七〇、五四六円

<1> 算出過程

(イ) 普通預金 四一四、四二三円

(ロ) 定期預金 七〇〇、〇〇〇円

(ハ) 架空借入金 四五〇、〇〇〇円

(ニ) 架空未払金 一一、五七一円

(ホ) 繰越金(普通預金) 一〇五、四四八円

(ヘ) 差引別口利益金((イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)-(ホ)) 一、四七〇、五四六円

<2> 算出根拠

(イ) 普通預金 四一四、四二三円

右普通預金は第三相互銀行奈良支店の砂田浩名義四三、四八五円、尾田竜一名義九一、九〇九円および田口明宏名義二七九、〇二九円の合計金額であって、いずれも右事業年度末(昭和三三年九月三〇日)現在の残高である。

被告係官の調査によれば、これらの預金名義人はいずれも架空人であつて、それぞれの預金口座名義人の住所(奈良市三条町)および職業(旅館業)は原告会社と全く同一のものである。

そして右砂田浩名義預金は昭和三三年一月七日、尾田竜一名義預金は昭和三一年五月九日、田口明宏名義預金は昭和三三年六月七日にそれぞれはじめられており、被告係官が右別口預金の入金の原因について調査したところ、原告会社の正規の帳簿に記載された計算(以下本勘定という)において資金不足の場合には仕入代金等の支払いをその支払いの必要の生じた日時に右別口預金から支払い、後日その支払いに見合う小切手を振り出して、あたかも右支払科目をその小切手で支払ったように仮装し、その小切手を右別口預金に入金しているもの、および(ロ)で述べる別口定期預金の利息、別口借入金の戻り利息を入金しているもの、ならびに原告会社の簿外の売上金の入金と認められるものがあった。

さらに右別口預金の出金について調査したところ、後記昭和三四年度分の(1)<2>(ロ)で述べる別口定期預金に振替っているものがあった。

このように、原告会社は右別口預金を原告会社の事業の遂行のために使用していたのである。

(ロ) 定期預金 七〇〇、〇〇〇円

右預金は第三相互銀行奈良支店の尾田浩名義二〇〇、〇〇〇円、秋月金雄名義五〇〇、〇〇〇円の合計金額であつて、いずれも本事業年度末の預金残高である。これらの預金の受取利息がいずれも(イ)で述べた田口明宏名義の普通預金に入金されているものである。

また尾田浩名義定期預金二〇〇、〇〇〇円は、原告会社の本勘定に記載されていない右銀行からの借入金(砂田金作名義で昭和三四年一二月二二日付一、〇〇、〇〇〇円の借入)の担保となつているものである。

右砂田金作は架空人であつて、その住所(奈良市三条町)および職業(旅館業)は原告会社と全く同一である。そして右砂田金作名義借入金の戻し利息(貸付金が満期日以前に返戻されたとき既収の貸付金利息の一部を日数に応じて銀行が払戻した利息)が(イ)で述べた尾田竜一名義普通預金に入金されている。

(ハ) 架空借入金 四五〇、〇〇〇円

(A) 原告会社の本勘定帳簿によれば、昭和三三年七月一五日一〇〇、〇〇〇円、同年八月二日二〇〇、〇〇〇円合計三〇〇、〇〇〇円を山本伊太郎から借入したことになつており、右借入金を同年一〇月二七日利息一三、九〇〇円とともに(元利金合計三一三、九〇〇円)原告会社振出の南都銀行の小切手で返済したことになつている。

しかし、実際は右借入金は昭和三三年七月一五日に第三相互銀行奈良支店の尾田竜一名義普通預金((イ)で述べた別口預金)から一〇〇、〇〇〇円、同銀行の砂田浩名義普通預金((イ)で述べた別口預金)から二〇〇、〇〇〇円それぞれ引出され、返済日たる昭和三三年一〇月二七日に尾田竜一名義普通預金へ一〇〇、〇〇〇円、砂田浩名義普通預金へ二〇〇、〇〇〇円がそれぞれ入金されている。

このことは、右別口預金から一〇〇、〇〇〇円および二〇〇、〇〇〇円を引出して本勘定においては山本伊太郎から借入れたごとく仮装し後日山本伊太郎へ本勘定から返済したごとくして、実際は別口預金へ預け入れしているものであつて、当該借入金は本事業年度末現在では架空である。

(B) 原告会社の本勘定帳簿によれば、昭和三三年九月六日一五〇、〇〇〇円を梅田茂から借入れたことになっており、同年一〇月二七日利息三、九〇〇円と共に元利金合計額一五三、九〇〇円を原告会社振出の南都銀行の小切手で返済したことになつている。

しかし、実際は、右借入金は昭和三三年九月六日に第三相互銀行奈良支店田口明宏名義普通預金(前述(イ)の別口預金)から一五〇、〇〇〇円引出され、同年一〇月二七日に同預金に一五〇、〇〇〇円と利息三、九〇〇円および前記山本伊太郎分利息一三、九〇〇円利息合計一七、八〇〇円(預け入れはこのうち一七、六〇〇円)をそれぞれ入金している。

したがつて、右借入金は前記山本伊太郎分と同様の理由により本事業年度末では架空の借入金である。

(ニ) 架空未払金 一一、五七一円

前記(ハ)に述べた山本伊太郎名義および梅田茂名義の各架空借入金に対する未払利息を本勘定において計上して いたので、これを否認して別口利益金に加算した。

(ホ) 繰越金

前記(イ)に述べた普通預金四一四、四二三円は当該事業年度末の残高であるが、この額のうち尾田竜一名義のものについては期首現在額一〇五、四四八円が含まれているので、この額を前期よりの繰越金として所得金額から減額した。

(減算すべきもの)

寄附金限度超過額認容額 七、七五七円

原告会社は、前記旧法人税法九条三項の規定により、損金繰入限度額を超過する七、七五七円について、所得金額に加算して確定申告をしたのであるが、被告において同法条および同法施行規則七条一項に基づき正当な繰入限度額を計算した結果、右七、七五七円は損金として認められるべきものとなる。なお、計算の経過は別表(一)のとおりである。

2. 昭和三四年度分について

(加算すべきもの)

(1) 別口利益金額

<1> 算出過程

(イ) 普通預金 一九〇、一二七円

(ロ) 定期預金 一、五〇〇、〇〇〇円

(ハ) 仮払金 五〇〇、〇〇〇円

(ニ) 架空未払金 一、六〇〇、〇〇〇円

(ホ) 繰越金 一、五七五、九九四円

(前期分の繰越金プラス同別口利益金)

(ヘ) 差引別口利益金 ((イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)=(ホ)) 二、二一四、一三三円

<2> 算出根拠

(イ) 普通預金 一九〇、一二七円

右普通預金は第三相互銀行奈良支店の砂田浩名義二七、〇九七円、尾田竜一名義一四三、二〇六円、田口明宏名義一九、八二四円の合計金額であつて、いずれも右事業年度末現在(昭和三四年九月三〇日)の残高である。

これらの預金は前記昭和三三事業年度分2(2)(イ)において主張したことと同一の理由によって、原告会社の別口と認めた。

(ロ) 定期預金 一、五〇〇、〇〇〇円

右定期預金は第三相互銀行奈良支店の尾田浩名義二〇〇、〇〇〇円、砂田金作、砂田金治名義各三〇〇、〇〇〇円、砂田金兵衛、若山美智子、若山佐智子名義各二〇〇、〇〇〇円、若山文子名義一〇〇、〇〇〇円の合計一金額であつていずれも当期未現在の定期預金高である。

このうち尾田浩名義二〇〇、〇〇〇円は前記昭和三三年度分の(2)<2>(ロ)において主張したことと同一の理由により原告会社の別口利益金である。

次に砂田金作、同金治名義各三〇〇、〇〇〇円および砂田金兵衛名義二〇〇、〇〇〇円、合計金八〇〇、〇〇〇円は前述(昭和三三年度分の(2)<2>(イ)の砂田 名義普通預金から昭和三四年五月二八日に払出された八〇〇、〇〇〇円が振り替つたものであり、若山佐智子、同美智子名義各二〇〇、〇〇〇円、同文子名義一〇〇、〇〇〇円合計五〇〇、〇〇〇円は前述(昭和三三年度分の(2)<2>(イ)尾田竜一名義普通預金から昭和三四年七月二日(銀行の締切後であるため預金元帳は七月三日付となっている)払出された五〇〇、〇〇〇円が振り替つたものであつて、いずれも架空名義であり原告会社の別口利益金と認めた。

(ハ) 仮払金 五〇〇、〇〇〇円

前記昭和三三年度分の(2)<2>(ロ)記載の秋月金雄名義定期予金は昭和三四年九月一六日解約されているが、原告会社に保留されていないので、原告代表者に仮払したものと認めた。

(ニ) 架空未払金 一、六〇〇、〇〇〇円

原告会社の本事業度年度末の貸借対照表によれば、訴外株式会社大同建設に対する原告会社の新館建築費の末払残金として一、七五〇、〇〇〇円が計上されている。

右原告会社の新館は、鉄筋コンクリート三階建延九七坪、請負金額五、一五〇、〇〇〇円のもので昭和三三年一二月二九日壁の上塗り分一五〇、〇〇〇円を残して竣工し、原告会社に引渡されている。原告会社は右建物を昭和三四年一月から使用している。右建築代金の決済について、原告会社の本勘定では奈良市信用金庫から翌事業年度の昭和三四年一〇月五日に一、〇〇〇、〇〇〇円、同月一五日に六〇〇、〇〇〇円借入し、同年一〇月五日に一、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三五年九月三〇日に六〇〇、〇〇〇円を訴外株式会社大同建設に支払つた如く記帳している。

ところが、原告会社が借入した右奈良市信用金庫からの一、〇〇〇、〇〇〇円は同日若山実、若山雪子、若山太郎各名義定期預金三〇〇、〇〇〇円、若山花子名義定期預金一〇〇、〇〇〇円に振替つており、また同信用金庫から借入れた六〇〇、〇〇〇円は同日村田秋穂、村田雪江名義定期預金各三〇〇、〇〇〇円に振替つている(いずれも原告会社の別口定期預金であって借入金の担保になつている。)

したがって、借入金は直ちに架空名義の定期預金に振替つているもので前記未払金に充当したのでない。さらに被告において訴外株式会社大同建設について右建築代金の決済状況を調査したところ、すでに右建物が引渡された昭和三三年一二月二九日現金一、六〇〇、〇〇〇円をもって支払われている事実が明らかとなった。この一、六〇〇、〇〇〇円の資金のうち一、〇〇〇、〇〇〇円はすでに述べた砂田浩名義普通預金から同日引出されている。

したがって、原告会社の本事業年度末における未払金一、六〇〇、〇〇〇円は架空のものである。

(2) 減価償却超過額

原告は昭和三三年度分から青色申告書提出承認取消処分をうけているため、償却不足額の繰越計算ができなくなり、別表(四)のとおり償却超過額が算出された。

(減算すべきもの)

(1) 未納事業税 一六六、五七〇円

昭和三三年度分の所得金額の更正により、本年度分に損金計上されるべき事業税を未納額として計上した。

(2) 寄附金限度超過額認容額 八、二五七円

右金額は、前事業年度分と同様原告会社が所得金額に加算して確定申告をしたものであるが、被告において正当な繰入限度額を計算した結果、右八、二五七円を損金として認めたもの。なお計算の経過は別表(二)のとおりである。

(3) 益金計上還付税額 七、四二九円

原告会社が本事業年度において還付を受けた市民税は、法人税法九条の九の規定により益金には算入されないもの。

3. 昭和三五年度分について

(加算すべきもの)

(1) 別口利益金額 六七五、九八八円

<1> 算出過程

(イ) 普通預金 二七四、四一〇円

(ロ) 定期預金 一、六〇〇、〇〇〇円

(ハ) 仮払金 二、五九一、七〇五円

(ニ) 繰越金 三、七九〇、一二七円

(前期末の繰越金+同別口利益金)

(ホ) 差引別口利益金 ((イ)+(ロ)+(ハ)+(ニ)-(ホ)) 六七五、九八八円

<2> 算出根拠

(イ) 普通預金 二七四、四一〇円

昭和三五年三月二三日より開始された第三相互銀行奈良支店村上金作名義普通預金は、前事業年度の普通預金と類似の関連が原告との間に認められるので、当期末残高金二七四、四一〇円を原告会社の別口利益と認めた。

(ロ) 定期預金 一、六〇〇、〇〇〇円

右定期預金は奈良市信用金庫の若山実、若山雪子、若山太郎名義各三〇〇、〇〇〇円、若山花子名義一〇〇、〇〇〇円、村田秋穂、村田雪江名義各三〇〇、〇〇〇円で、いずれも当期末現在の定期預金高であるが、前記昭和三四年度分の(1)<2>(ニ)で述べているとおり、奈良市信用金庫から一、六〇〇、〇〇〇円借入と同時に振替発生した定期預金で、当該借入金の担保となっている。

したがつて、実質は原告会社のものである。

(ハ) 仮払金 二、五九一、七〇五円

(A) 前期三四年度より繰越した仮払金五〇〇、〇〇〇円

(B) 前記三四年分の(1)<2>(ロ)において主張した砂田金作、砂田金治名義各金三〇〇、〇〇〇円、尾田浩、砂田金兵衛、若山佐智子、若山美智子各名義各金二〇〇、〇〇〇円、若山文子名義金一〇〇、〇〇〇円とこれらの定期預金利息金九一、七〇五円、合計一、五九一、七〇五円が当期中払出されているもので、これらの支出は原告会社代表者に対して仮払したものと認めた。

(C) 第三相互銀行奈良支店尾田竜一名義普通預金から払出した金二〇〇、〇〇〇円、同じく砂田浩名義普通預金から払出した金三〇〇、〇〇〇円を右代表者に対する仮払金と認めた。

(2) 減価償却超過額 一、六七四円

前年度分と同様の理由により償却不足額の繰越計算ができなくなり、別表(五)のとおり償却超過額が算出されたもの。

(3) 損金計上源泉徴収加算税 三〇〇円

原告会社が、損金に計上した右金額は法人税法九条二項の規定により、損金に算入することはできないものである。

(減算すべきもの)

(1) 減価償却超過額認容額 五三、七二六円

別表(六)のとおりである。

(2) 未納事業税 二一八、二四〇円

昭和三四年度分の所得金額の更正により本年度分に計上されるべき事業税額を算出認容した。

(3) 税金引当金の目的外支出 七、三八一円

右原告会社は、本事業年度において遊興飲食税等の法人税法上損金となる諸税合計額七、三八一円を税金引当金から支出して、損金に計上していなかつたので、損金と認めた。

4. 昭和三六年度について

同年度分の各項目別の更正理由は、本件再更正処分についての各項目別の再更正理由とすべて同一であるから、これを援用する。

(三) 前記(一)の(2)表に掲げた本件再更正処分の各項目別の再更正理由は、つぎのとおりである。

(加算すべきもの)

(1) 別口利益金 一、一六八、一九七円

<1> 算出過程

(イ) 普通預金 三、一九七円

(ロ) 仮払金 五、六三一、一一五円

(ハ) 繰越金 四、四六六、一一五円

(前期末繰越金+別口利益金)

(ニ) 差引別口利益 ((イ)+(ロ)-(ハ)) 一、一六八、一九七円

<2> 算出根拠

(イ) 普通預金 三、一九七円

前記昭和三五年度分の(1)<2>(イ)にて主張した第三相互銀行奈良支店、村上金作名義預金の当事業年度末残高である。

(ロ) 仮払金 五、六三一、一一五円

(A) 昭和三五年度より繰越した仮払金二、五九一、七〇五円

(B) 前記昭和三五年度分の1(2)(ロ)にて主張した若山実、若山雪子、若山太郎、村田雪江、村田秋穂名義各三〇〇、〇〇〇円、若山雪子名義一〇〇、〇〇〇円以上合計一、六〇〇、〇〇〇円が当期中に払出されている。これらの支出は原告会社の代表者に対して仮払したものと認めた。

(C) 第三相互銀行奈良支店村上金作名義普通預金から昭和三五年一〇月二四日に払出されている一、四三九、四一〇円を右代表者に対して仮払したものと認めた。

(2) 簿外定期預金利息 九七、六八〇円

右(1)<2>(ロ)(B)記載の定期預金利息合計九七、六八〇円の使途不明のため、右代表者に対する賞与と認定した。

(3) 減価償却超過額 六五、九三七円

別表(七)のとおりである。

(4) 寄附金損金算入限度超過額二八、六〇六円

別表(三)のとおりである。

(5) 仮払計上督促手数料等 一四〇円

原告が申告書において減算している仮払督促手数料等一四〇円が原告の貸借対照表上に計上されていないので否認した。

(減算すべきもの)

(1) 減価償却超過額の認容額

別表(七)のとおりである。

(2) 未納事業税

昭和三五年分の所得金額の更正により、本年分に損金計上されるべき事業税を未納額として計上した。

第三、証拠

(原告)

一、甲第一号証、第二号証の一乃至四、第三号証の一乃至四、第四号証、第五号証、第六号証の一乃至五、第七号証の一乃至四、第八号証の一乃至四、第九号証の一乃至四、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証乃至第二一号証提出

二、証人 生真玄の証言、原告代表者本人尋問の結果援用。

三、乙第一号証乃至第四号証、第七号証、第八号証の一乃至四、第九号証の一乃至四、第一〇号証の一乃至四、第一一号証第一二号証の一乃至三、第一四号証、第一五号証、第一六号証の一乃至三、第一八号証の一乃至八、第一九号証の一乃至第二〇号証の一、二、第二一号証、第二四号証の一乃至五、第二五号証、第二六号証、第二七号証の一、二、第二九号証の一、二、第三〇号証乃至四〇号証の各成立を認め、第五号証、第六号証、第一七号証、第二二号証、第二三号証、第二八号証の一乃至五の成立はいずれも不知、検乙第一号証の一、二の成立を認める。

(被告)

一、乙第一号証乃至第七号証、第八号証の一乃至四、第九号証の一乃至四、第一〇号証の一乃至四、第一一号証、第一二号証の一乃至三、第一三号証乃至第一五号証、第一六号証の一乃至三、第一七号証、第一八号証の一乃至八、第一九号証の一乃至七、第二〇号証の一、二、第二一号証乃至第二三号証、第二四号証の一乃至五、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八号証の一乃至五、第二九号証の一、二、第三〇号証乃至第四〇号証および検乙第一号証の一、二を提出する。

二、証人鴨仲尊男、同中井英一の各証言、

三、甲第一号証、第二号証の一乃至四、第三号証の一乃至四、第四号証、第五号証、第六号証の一乃至五、第七号証の一乃至四、第八号証の一乃至四、第九号証の一乃至四、第一〇号証、第一一号証一、二、第一四号証、第一七号証乃至二一号証の各成立を認め、第一二号証、第一三号証、第一五号証、第一六号証の各成立は不知。

理由

(本案前の判断)

一、請求原因(一)乃至(三)の各事実は当事者間に争いがない。

二、原告の昭和三六年度分の法人税についての本件更正処分の取消を求める訴の適否。

(一)  右判断をするに先だつて、原告は同年度分の本件再更正処分の通知書を受領していない旨主張するのでこの点につき検当するに、成立に争いのない乙第一号証乃至第四号証、第一三号証検乙第一号証の一、二、原告代表者本人尋問の結果(後記認定に反する部分を除く。)および弁論の全趣旨を総合すれば、被告は昭和四〇年七月三一日本件再更正処分の通知書を書留郵便にて原告宛送付し、右通知書は同年八月二日株式会社主婦の店従業員佐々木かずによって代人受領されていること、右通知書は原告代表者浅川実の氏名を表示して送達されていること。右主婦の店代表者は原告代表者の子息である浅川浩であり、原告代表者も右主婦の店の取締役であること、右主婦の店は原告より店舗を賃借しているもので原告の事務所も右店舗内に存在していることなどが認められ、右認定事実よりすれば同通知書は前記佐々木かずを通じて同日頃原告の了知しうる状態に置かれたものと認めるのが相当である。

(二)  ところで、一般に申告にかかる課税標準等について更正処分があつた後に所謂増額再更正処分がなされた場合、両処分がいかなる関係に立つかについて見解のわかれるところであるが、両処分は日時を異にしてなされるとはいえ、いずれも既に観念的に成立している一個の租税債務をそのあるべき正当な数額に具体化するための行為であり、所謂増 額再更正処分にあっては更正にかかる課税標準等の脱漏部分だけを追加確定する処分ではなく当初の更正にかかる課税標準等をも含めて全体としての課税標準等を確定する処分である。従って再更正処分が行なわれれば更正処分は更正処分の処分内容としてこれに吸収されて一体的なものとなり、独立の存在を失うに至るものと解するのが相当である。実質的にみても再更正処分の取消訴訟において再更正処分の増差額のみならず申告額を超える部分の全てについてその手続上および内容上の一切の瑕庇を主張して審理を受けることが可能であるのだから更正処分の存続併存を認めなくとも納税者の救済としては十分である。(昭和三二年九月一九日最高裁第一小法廷判決、昭和四三年六月二七日東京地裁判決参照。)従って、既に再更正処分がなされている以上、再更正前に財産差押(国税通則法二九条)がなされたとの主張立証のない本件においては、当初の更正処分を独立の対象としてその取消を求める利益はないというべきであるから原告の昭和三六年度分の法人税についての本件再更正処分の取消を求める訴は不適法として却下を免れない。

三、原告の昭和三六年度分の法人税についての本件再更正処分の取消を求める訴の適否。

前記二(一)判示の如く、本件再更正処分がなされたのは昭和四〇年七月三一日であり、右再更正処分取消訴訟が提起されたのは同四四年二月二六日である(記録上明らかである。)から、その間に三ケ月以上の時日が経過していることは明らかである。他方本件再更正処分取消訴訟が提起される以前に本件更正処分取消訴訟が提起され係属中であることも記録上明らかである。ところで更正処分と再更正処分の両者の関係については前記二(二)において判示したとおりであり、更正処分の取消訴訟と再更正処分の取消訴訟とは基本的には同一事実に対する処分についての同一の違法性の確定を目的とする訴訟であり、訴訟の対象は実質的には同一というべきである。従つて更正処分取消訴訟の係属中に、当該訴訟に予備的に再更正処分が追加された場合既にその出訴期間が経過していたとしても、当初の更正処分取消訴訟が適法に提起されている限り再更正処分取消訴訟も当初の更正処分取消訴訟提起時に適法に提起されたものと解するのが相当である。

(本案の判断)

一、原告の昭和三三年度乃至三六年度分の法人税について原告が確定申告した所得金額に対し、被告が本件更正処分(昭和三三年度乃至同三五年度分。但し、上記各年度分につき大阪国税局長が本件審査決定により、それぞれの一部を取消した分を除く。)および本件再更正処分(同三六年度分)により増減額した所得金額の内訳は被告の本案の主張(一)(1)、(2)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、このうち昭和三三年度分の確定申告による所得金額、繰越欠損金否認額昭和三四年度分の確定申告による所得金額、減価償却超過額、益金計上還付税額、昭和三五年度分の確定申告による所得金額、減価償却超過額、損金計上源泉徴収加算税、減価償却超過額認容額、税金引出金の目的外支出額、昭和三六年度分の確定申告による所得金額、減価償却超過額、減価償却超過額認容額については、原告においていずれも被告主張の増減額どおりになることを認めて争わないところである。

二、別口利益金を認定したことの当否

(一)  先ず架空名義預金をもつて、原告に帰属し、かつ原告の簿外売上金が入金されるなどした所謂別口預金であると認定したことの当否について判断する。(この点につき原告は右架空名義預金は原告に帰属するものではなく、原告代表者浅川実個人に帰属するものである旨主張している。)

(イ) 右架空名義預金の帰属の如何についてはしばらくおくとして、各事業年度末において被告主張にかかる普通預金および定期預金名義と預金残高が存在していること、右各預金はいずれも架空名義であること、右架空名義預金のうち若山実、若山雪子、若山太郎、若山花子各名義の定期預金は昭和三四年一〇月五日奈良市信用金庫から借入れした金一、〇〇〇、〇〇〇円が振替つて同日開設され、村田秋穗、村田雪江各名義の定期預金は同年一〇月一五日に同信用金庫から借入した金六〇〇、〇〇〇円が振替って同日開設されたことについてはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一七号証、第一九号証、第二〇号証、乙第一〇号証の一により、砂田浩名義普通預金は昭和三三年一月七日、尾田龍一名義普通預金は昭和三一年五月九日、田口明宏名義普通預金は昭和三三年六月七日、村上金作名義普通預金は昭和三五年三月二三日に各開設されていること、成立に争いのない乙第一八号証の五、第一九号証の六 証人嶋仲尊男の証言により、砂田金作、砂田金治、砂田金兵衛各名義の定期預金は昭和三四年五月二八日に前記砂田 名義普通預金から払出された金八〇〇、〇〇〇円が振替つて開設されたこと、若山美智子、若山佐智子、若山文子各名義の定期預金は前記尾田龍一名義預金から払出された金五〇〇、〇〇〇円が振替つて開設されたことが各認められる。

(ロ) そこで砂田浩、尾田龍一、村上金作、田口明宏各名義の普通預金、尾田浩、秋月金雄各名義の定期預金を原告に帰属するものと認めることが合理的であるか否かを検討することにする。

成立に争いのない乙第七号証、第八号証の一乃至四、第九号証の一乃至四、第一〇号証の一乃至四、第一一号証、第一六号証の一乃至三、第一八号証の一乃至八、第一九号証の一乃至七、第二〇号証の一、二、第二一号証、第二七号証の一、二、第二九号証の一、二、第三〇号証、証人嶋仲尊男の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証および第二三号証証人中井英一の証言により真正に成立したと認められる乙第六号証および第二八号証の一乃至五、証人嶋仲尊男、同中井英一、同楳生真玄の各証言、原告代表者本人尋問の結果およびび弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は国鉄奈良駅前というかなり有利な立地条件のもとで旅館業を営み、修学旅行団体客、一般団体客、一般宿泊客等があり従って毎日の如く現金売上金があったと考えられること、原告の経営は代表者とその家族(妻および息子夫婦)によってなされている所謂同族会社であり、実質は個人経営旅館と異なるところなく、原告の毎日の現金管理および社内での書類作成等の経理面は右代表者等によつて行なわれており売上収入金を除外し簿外売上金を作り出すことは容易な状況にあつたこと、前記各預金はいずれも架空名義であり、原告代表者浅川実が現実に支配操作していたこと、前記各預金は住所、職業が原告のそれと符合していたことから発見されたのであるが、発見当初その帰属につき釈明を求められた際、原告代表者は原告のものでも原告代表者個人のものでもなく全く関知しない旨主張してその帰属を否定し、審査請求に基し協議団の調査においても前記主張を繰り返しておりながら税務調査の進展と訴訟提起による訴訟上の主張と相俟つて漸く前記各預金が浅川実個人に帰属する旨主張を翻すに至つたこと、右各預金の預金源について本訴訟における証拠調でもこれを首肯納得させるに足る供述を得るに至らないこと(この点につき、原告は預金源として、椿井市場内製肉店舗の什器備品付老舗権利を昭和三二年八月一五日岡西元一に八〇〇、〇〇〇円にて売却譲渡し、以後同人より右店舗賃料なして毎月五、〇〇〇円の収益を得ていること。昭和二一年頃高間数一(浅川実の義弟)が飲食営業を始めるに際し、同人に対し不動産購入結婚等の資金として貸与えた一、三〇〇、〇〇〇円を昭和三二年頃より同人から遂次返済を受けていること、尾田鶴雄(浅川実の従兄弟)に対し四五〇、〇〇〇円を貸与えたところ、同人が右貸金で購入した土地家屋を昭和三一年八月売却したことに伴ないその代金二〇〇、〇〇〇円を物価昂謄による前記貸金の弁済額として同人から返済を受けたこと等を主張しているが、右主張に添う原告代表者本人尋問の結果はきわめて曖昧で首肯しうるに足りず、にわかに措信しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。)前記各預金の入金および利用の状況をみるに、尾田龍一名義預金については相当まとまった入金がなされては引き出されるという反覆的繰返しがなされ浮動的営業預金型の利用状況が窺え、かつ原告において仕入代金等の支払いをなす必要が生じた時に右預金から現実に支払いがなされ、後日原告の本勘定の支払科目にその支払いに見合う小切手を振出してその小切手で支払をなしたかの如く記載し、現実には当該小切手を支払科目に記載した日に右預金に入金していたり、旅館斡旋業者から振出された手形あるいは小切手の入金がなされていること、砂田浩、村上金作各名義預金については、いずれも現金で入金され、入金前後の間隔はきわめて短期間かつ継続的であり、出金回数に比して入金回数がきわめて多く入金額も比較的小口で、所謂貯蓄預金型の入金状況が窺えること、尾田龍一、砂田浩、田口明宏各名義普通預金は建築代金の支払いあるいは原告の本勘定において資金不足時に引き出され、本勘定帳簿に受け入れられ営義のための借入金の資金源とされるなどの利用状況が窺えること、原告代表者およびその家族の収入源は原告から支給される給料および現物給与がその主体でありその他に家賃および個人預金の利息収入があるにすぎず、原告代表者浅川実、浅川浩(長男)、浅川雪江(妻)、浅川百合子(長男の嫁)が原告から支給された収入金額(給与所得控除額を控除した残高ではない。)は昭和三三年度において合計八八二、四〇〇円、昭和三四年度において合計九一三、四〇〇円、昭和三五年度において合計一、〇七三、六七三円であることからみて原告代表者および家族の収入金等は前記各預金の入金状況に適合するものではないことの各事実を認めることができ、右認定に反する証人楳生真玄の証言、原告本人尋問の結果は信用しない。ところで右認定の諸事実を総合して考えるに、預金源の探究によつて入金に見合う預金源や預金事情が他に存ずる疑いが少なく、預金の入金状況が貯蓄預金においては継続安定性を示し、営業預金においては出金と合わせて反覆干満性を示し、入金額は各個に又は合計しても異状なところが少ないという状況が認められ、加えて簿外売上金作出の可能性や別口預金が発見されるに至つた経緯に鑑みると、右別口預金は簿外売上金の隠ぺい預金とみても格別不相当なところがなく、前記各預金は簿外売上金によるものと推認するのが合理的である。蓋し、一般に商人の利用する預金の預金源は貯蓄又は利殖のための貯蓄預金であろうと、営業上の収支の時間的間隙をつなぐための若しくは不時の事態に備えて余裕資金を預入れる営業預金たることを問わず売上金若しくはこれから生じた差益利得に依存する度合いがきわめて大きいからである。(昭和三八年三月二八日大阪高裁判決参照。)

(ハ) しからば被告が砂田浩、尾田龍一、村上金作、田口明宏各名義の普通預金、尾田浩、秋月金雄各名義の定期預金を原告に帰属するものと認めたことは相当であり、砂田金作、砂田金治、砂田金兵衛、若山美智子、若山佐智子、若山文子各名義の定期預金もその預金源が前記砂田浩、尾田龍一各名義の普通預金が振替つたものであることから、原告に帰属することは明らかである。ところで若山雪子、若山太郎、若山実、若山花子、村田秋穗、村田雪江各名義の定期預金は原告の新館建築費にあてるため奈良市信用金庫から借入た金一、六〇、〇〇〇円が振替つたものであることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第一九号証の四、その様式ならびに趣旨により真正に成立したと認められる乙第一七号証、証人嶋仲尊男の証言および弁論の全趣旨を総合すれば、前記借入の目的となつた建築代金の決済は昭和三三年一二月二九日に現金一、六〇〇、〇〇〇円をもつてなされており、このうち一、〇〇〇、〇〇〇円は前記砂田浩名義普通預金から支払われていることが認められることからして、右各定期預金は原告に帰属するものであることも明らかである。そうすれば各架空名義の普通預金および定期預金が原告に帰属するものとの認定はいずれも適法であるというべきである。

(二)  架空借入金を認定したことの当否

(イ) 原告の本勘定によれば、昭和三三年七月一五日金一〇〇、〇〇〇円、同年八月二日金二〇〇、〇〇〇円を山本伊太郎から各借入れ、右各借入金を同年一〇月二七日利息一三、九〇〇円とともに原告振出の南都銀行の小切手で返済したこと、同年九月六日一五〇、〇〇〇円を梅田茂から借入れ、同年一〇月二七日利息三、九〇〇円とともに原告振出の南都銀行の小切手で返済したことの各記載があることについては当事者間に争いがない。

(ロ) ところで成立に争いのない乙第一八号証の二、三、第一九号証の三、四、第二〇号証の二、第二四号証の一乃至五、第二六号証、証人嶋仲尊男、同中井英一の各証言、および弁論の全趣旨を総合すると、右借入金額、借入月日、借入金返済月日に符合する山本伊太郎、梅田茂の各領収書が交付されていることが認められるが、他方右借入月日、借入金返済月日に符合して前記尾田龍一、砂田浩各名義普通預金に出入金されていること、税務調査段階においては本勘定記載のとおりである旨主張していながら本訴訟において前記各預金から借入れた旨主張を翻えすに至つたことが認められ、このことから右各領収書は真実を反映したものとは認めがたく、真実は前記各預金から借入金額相当額を引き出し、本勘定においては山本伊太郎、梅田茂から借入れたごとく仮装し、後日山本伊太郎、梅田茂へ本勘定から返済したごとくして実際は前記各預金へ預入れしているものと認めるのが相当である。

しからば各預金が原告に帰属する別口預金であることは先に認定したとおりであるから、当該借入金は昭和三三年事業年度末(昭和三三年九月三〇日)現在では架空であるといわざるを得ない。よって前記各仮入金を架空と認めたことは適法というべきである。

(三)  架空未払金を認定したことの当否

(イ) 昭和三三年度において、山本伊太郎、梅田茂各名義の借入金の未払利息として、金一一、五七一円が本勘定において計上されていることは当事者間に争いのないところ、右借入金が架空であることは先に認定したとおりであるから、これを架空の未払利息として否認し別口利益金に算入することは適法というべきである。

(ロ) 昭和三四年度において、原告の訴外株式会社大同建設に対する新館建設代金につき、原告の本勘定では奈良市信用金庫から昭和三四和一月五日に金一、〇〇〇、〇〇〇円、同月一五日に金六〇〇、〇〇〇円を各借入し、同年一〇月五日に金一、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三五年九月三〇日に金六〇〇、〇〇〇円を右訴外会社に支払った旨の記載のあることについては、原告の明らかに争わないところであるからこれを自認したものとみなす。ところで原告の借入した右奈良市信用金庫からの合計一、六〇〇、〇〇〇円は当該日に若山実、若山雪子、若山太郎、若山花子、村田秋穗、村田雪江各名義の定期預金に振替っていることについては当事者間に争いがなく、従つて右借入金は前記未払金に充当されていないものであるところ、右訴外会社に対する建築代金は右建物が引渡された昭和三三年一二月二九日現金一、六〇〇〇〇〇円をもって支払われていることは前記認定のとおりであり、結局原告の昭和三四年事業度末、(昭和三四年九月三〇日)現在における未払金は架空のものというべきであるから、これを架空の未払金として否認し、別口利益金に算入することは適法である。

(四)  仮払金を認定したことの当否

(イ) 昭和三四年事業年度において、秋月金雄名義定期預金(預金残高五〇〇、〇〇〇円)が解約されたことについては当事者間に争いがなく、昭和三五年事業年度において、砂田金作砂田金治各名義に金三〇〇、〇〇〇円、尾田浩、砂田金兵衛、若山佐智子、若山美智子各名義各金二〇〇、〇〇〇円、若山文子名義金一〇〇、〇〇〇円とこれらの定期預金利息金九一、七〇五円、尾田龍一名義金二〇〇、〇〇〇円、砂田浩名義金三〇〇、〇〇〇円、昭和三六年事業年度において、若山実、若山雪子、若山太郎、村田雪江、村田秋穗各名義各金三〇〇、〇〇〇円を若山雪子名義金一〇〇、〇〇〇円、村上金作名義金一、四三九、四一〇円が各引出されていることについては原告の明らかに争わないところであるからこれを自認したものとみなす。

(ロ) ところで前記各預金が原告に帰属する所謂別口預金であること、右各預金を現実に支配操作していたのは原告代表者であることは先に認定したとおりであり、このことから前記各引出し金を原告代表者が受取つたものと推認でき、加えて原告代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、右各引出し金が原告に留保されておらず、かつ原告代表者はその使途につき何ら首肯納得させる供述をしていないのであって、右各金員は原告代表者個人の支出にあてられたものと推認できる。法人税法上所謂利益処分として役員賞与と認定することも可能であるが、原告代表者の個人資産の状況からみて返還可能であること、および役員賞与と認定するよりも租税負担上有利であることから考えて仮払金として認定したことは相当というべきである。

(五)  以上判示のとおり、昭和三三年度から昭和三六年度に亘る別口利益金の算定は相当なものというべく、この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。

三、寄附金限度超過額認容額および寄附金損金算入限度超過額を認定したことの当否。

(イ)  原告が確定申告書において、昭和三三年度につき金七、七五七円、昭和三四年度につき金八、二五七円をそれぞれ寄附金の損金不算入額として計上していたことについては明らかに争わないからこれを自認したものとみなす。

(ロ)  旧法人税法九条三項によれば、法人が支出した寄附金のうち限度超過する金額については所得の計算上損金に算入されないこととされ、同法施行規則七条一項はその計算方法につき、当該事業年度においてなした寄附金の合計額が当該事業年度の資本金に千分の二・五を乗じて算出した金額と、所得金額に一〇〇分の二・五を乗じて算出した金額との合計額の二分の一に相当する金額を超える場合にその超過した金額を損金不算入額とする旨規定し、同規則七条六項は右所得金額の範囲について規定している。ところで、先に認定した如く、被告の更正により所得金額に増減が生じているため、前記各金額が損金算入限度額を超過しているもので、あるか否かの検討を要することになる。そこで損金算入限度額を算定するに、昭和三三年度においては成立に争いのない乙第三八号証、昭和三四年度においては成立に争いのない乙第三九号証によって認められる各数額を前記計算方法にあてはめれば別表(一)、(二)記載の金額が算出され、前記各金額は損金不算入額には該当せず限度額以内の金額であることが明らかであり、被告において、それぞれ寄附金限度超過額認容額と認めたことは適法というべきである。

なお別表(一)、(二)における所得金額の算出過程は次のとおりである。

別表(一)

<省略>

別表(二)

<省略>

(二) 寄附金損金算入限度超過額認定の当否

(イ)  成立に争いのない乙第四〇号証によれば、原告は昭和三六年度分の損金計算書において、営業費の内訳として寄附金八〇、六〇〇円を計上していることが認められ、証人嶋仲尊男の証言により真正に成立したと認められる乙第二二号証、証人嶋仲尊男の証言によれば、右寄附金の内訳は、石切堂二、〇〇〇円、山本弥太郎一、〇〇〇円、緑ケ丘中学校五、〇〇〇円三条派出所一、五〇〇円、奈良職安庁舎建設寄附金三、〇〇〇円、三条派出所一、五〇〇円柳生村三、〇〇〇円、光蓮寺五〇、〇〇〇円、奈良同和青年協議会一、〇〇〇円、三条派出所一、五〇〇円、山本弥太郎五、〇〇〇円自由労働組合五〇〇円、西之阪青年会六〇〇円、日本旅行会慰安旅行寄附金五、〇〇〇円であることが認められる。ところで、被告は西之阪青年会、自由労働組合、日本旅行会慰安寄附金をいずれも旧法人税法九条三項にいう寄附金と認めていない。惟うに、西之阪青年会、自由労働組合に対する各寄附金額は一口一、〇〇〇円未満であるところ、法人税法基本通達六七によれば一口一、〇〇〇円未満は寄附金として取り扱わないことになつていること、また日本旅行会慰安旅行寄附名義については原告の営業からみて、旧租税特別措置法六二条三項にいう法人が「事業に関係のあるもの等に対する接待、きょう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出」した交際費とみるのが妥当であることからみて、その寄附金否認が首肯できる。また前掲各証拠によれば、奈良職業安定所庁舎建設寄附金については指定寄附金の取扱いをなしていることが認められるところ、旧法人税法施行規則八条により指定された昭和二五年七月五日大蔵省告示第五一〇号の一号にいう国又は都道府県又は市町村に対する寄附金に該当すること明らかである。

(ロ)  原告の昭和三六年度における損金計上の寄附金額は指定寄附金額三、〇〇〇円、その他の寄附金額七一、五〇〇円、合計七四、五〇〇円であることは先に認定したとおりであるが、被告の更正により所得金額に増減が生じているため、右金額が損金算入限度額を超過しているものであるか否かの検討を要することになる。そこで損金算入限度額を算定するに、成立に争いのない乙第四〇号証によって認められる各数額を、旧法人税法九条三項、同規則七条一項、六項、八条、法人税法基本通達七六を適用して計算するに、別表(三)記載の金額が算出され、金二八、六〇六円だけ損金算入限度額を超過していることになり、被告において寄附金損金算入限度超過額と認めたことは適法というべきである。

なお別表(三)における所得金額の算出過程は次のとおりである。

<省略>

四、簿外定期預金利息を認定したことの当否

昭和三五年事業年度において、若山実、若山雪子、若山太郎、村田雪江、村田秋穗、若山雪子各名義定期預金利息合計九七、六八〇円が引き出されていることについては原告の明らかに争わなないところであるから自認したとみなす。

ところで、前記各預金が原告に帰属する別口預金であることについては先に認定したとおりであるが、右定期預金利息が原告に留保されておらず、かつ原告代表者はその使途につき何ら首肯納得させる供述をなしていないことは原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨より明らかであり、右金員は原告代表者の個人の支出にあてられたと推認するのが相当であるから、法人税法上所謂利益処分として役員賞与と認定することは妥当である。

五、仮払計上督促手数料等を認定したことの当否。

成立に争いのない乙第一四号証、第一五号証によれば原告が申告書において減算している仮払督促手数料一〇円、同延滞料一三〇円、合計一四〇円が貸借対照表上に計上されていないことは明らかであり、これを否認したことは適法というべきである。

六、未納事業税を認定したことの当否。

法人税の所得の計算上事業税の取扱いについては前事業年度分に対する事業税は法人が損金計上をしているといないとにかかわらず損金に算入するものとし、かつ事業税額は前事業年度の所得金額に標準税率(地方税法七二条の二二)を乗じて算出することになっている(昭和二六年三月二九日付直法一-四二国税庁長官通達)。ところで昭和三三年度の所得金額を一、七四八、〇五〇円と更正した被告の処分が正当であることは先に認定したことより明らかである。したがつて昭和三四年度分未納事業税の当否について判断するに、前記計算方法により算出された金額一七九、七六〇円から成立に争いのない乙第三三号証によつて認められる期中納付額金一三、一九〇円を控除すれば昭和三四年度の未納事業税額が金一六六、五七〇円であることは明らかである。

次に昭和三四年度分の所得金額を二、五六四、一二八円と更正した被告の処分の正当であることはこれまで認定したことにより明らかであり、右金額に昭和三四年四月一日付法第一六号によって改正された地方税法規定の税率を乗じて算出された金額三四二、六七〇円から成立に争いのない乙第三三号証、第三四号証によつて認められる期中納付額金二四、四五〇円を控除すれば、昭和三五年度の未納事業税額が金二一八、二四〇円であることは明らかである。さらに昭和三五年度の未納事業税額が金二一八、二四〇円であることは明らかである。さらに昭和三五年度の所得金額を一、一〇四、〇一九円と更正した被告の処分の正当であることは先に認定したとおりであり、右金額に昭和三五年度同様改正地方税法規定の税率を乗じて算出された金額八五、四〇〇円から成立に争いのない乙第三五号証により認められる期中納付額金五二、三〇〇円を控除すれば、昭和三六年度の未納事業税額が金三三、一〇〇円であることは明らかである。よつて、被告において昭和三四年度乃至昭和三六年度において未納事業税額を認定したことはいずれも適法である。

七、しからば以上判断した如く、原告の被告に対する本訴請求は、すべて理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 谷口伸夫 裁判官 大山隆司)

別表(一)

昭和38年度分寄附金損金算入額の計算

<省略>

(注) 法人税法施行規則七条六項による所得金額

別表(二)

昭和34年度分寄附金損金算入額の計算

<省略>

(注)1 法人税法施行規則七条六項による所得金額

別表(三)

昭和36年度分寄附金損金算入額の計算

<省略>

(注)1 旧法人税法施行規則七条六項による所得金額

別紙四

<省略>

別紙四

<省略>

別表(五)

<省略>

註 ( )内は原告の計算額 <1> 耐用年数適用の誤り。<2> 償却率適用の誤り。<3> 償却額算出の誤り。

<4><5> 青色申告取消処分により償却不足額の繰越計算はできない。

別表(六)

<省略>

別表(七)

<省略>

別表(七)

<省略>

別表(七)

<省略>

別表(七)

<省略>

<省略>

除却分認容

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